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福島地方裁判所 昭和23年(行)11号 判決

原告

佐藤辰江

被告

福島縣農地委員会

主文

原告の訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

請求の趣旨

被告は別紙物件目録記載の土地に対する自作農創設特別措置法第三條第一項第一号による買收計画を取り消せ。訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告は合式の呼出を受けながら、昭和二十三年九月十日午前九時の本件口頭弁論期日に出頭しなかつたから、その提出した訴状に記載した事項は、これを陳述したものとみなした。右記載事項は左の通りである。

請求の原因。原告は大正九年五月十三日佐藤長次の二男として生れ、その法定の推定家督相続人であつた。長次は久しい間の肺患のため家業をとることができなかつたが、原告は長次の晩年の子で、幼少で家業を扶けることができなかつたので、長次は、やむなく、大正十四年八月八日原告の姉キヨ(明治四十年七月十八日生)に訴外上野三伍を婿養子として迎え、三伍に佐藤家を継がせて、原告を分家させることにした。長次は昭和二年二月八日死亡して、三伍がその家督相続をしたが、昭和十三年十月十五日、親族が集合協議の上、長次の遺志をくんで、原告のために原告と三伍との間に次のような約束をさせ、その旨の文書を作成して、親族もまた連署した。

(イ)  三伍のした家督相続はこれを承認すること。

(ロ)  原告は相当な時期に婚姻して分家すること。

(ハ)  その時期に三伍は別紙物件目録記載の土地を原告に贈與すること。

(ニ)  原告名義の河沼郡野沢町字原町乙二千六百六十三番地宅地及び建物は原告の所有であることを確認すること。

(ホ)  三伍は原告の日常生活に必要な家財道具を原告に贈與すること。

(ヘ)  三伍は野沢町所在の畑約二反歩を買い受け、これを原告に贈與すること。

(ト)  三伍は農耕器具を原告に贈與すること。

(チ)  三伍は金五千圓を原告に贈與すること。

原告は昭和二十一年十二月三十日訴外上野キヨ子と事実上の婚姻をし、昭和二十二年四月二十一日その届出をし、約定の土地の贈與を受けて、所有権移轉登記手続をしようとしたが、農地調整法のため、らちがあかなかつたので、同日、三伍を被告として、本件土地につき贈與による所有権移轉登記手続をなすべき旨の訴を福島地方裁判所若松支部に提起し、同年六月十日右請求を認容する旨の判決が言い渡されたので、同年八月二十二日該判決に基き、原告名義に所有権移轉登記を経由した。然るに野沢町農地委員会は、本件土地を不在地主である原告(三伍の誤記と認める)の所有する小作地であるとして、自作農創設特別措置法第三條第一項第一号によりこれを買收する旨の決定をしたので、原告及び三伍はこれに対し異議の申立をしたが却下されたから、昭和二十二年六月二十七日被告に訴願したところ、被告は同年七月二十六日これを棄却し、該裁決書の謄本は同年九月五日原告に送付された。しかしながら右裁決は事実の判断を誤り、且つ、同法の判断を誤つた違法があるから、本訴を提起した次第である。

被告は先ず主文同旨の判決を求め、その理由として、原告が昭和二十二年九月五日本件裁決書の送付を受けて、その裁決を知つたことは、原告の主張で明かであるから、その取消を求める本訴は、自作農創設特別措置法附則第六條により、この法律施行の日から一箇月以内に提起しなければならないのに、この期間経過後に提起されたものであるから不適法であると述べ、次に原告の請求を棄却し、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、原告の主張の事実 、野沢町農地委員会の定めた本件買收計画に対し、原告及び三伍が異議申立をしたこと、これを却下した決定に対し、昭和二十二年六月二十七日訴願が提起されたこと及び被告が同年七月二十六日これを棄却する旨の裁決をし、右裁決書が同年九月五日原告に送付されたことは、これを認めるが、右裁決には、事実の判断を誤り、自作農創設特別措置法の解釈を誤つた違法はない。その余の原告主張事実は不知と述べ仮りに原告主張の贈與の事実があつたとしても、本件買收計画公告当時、その旨の登記を経ていなかつたの  野沢町農地委員会は、これを耶麻郡新鄕村大字豐洲字常盤三千四百三十七番地佐藤三伍の所有する小作地として買收計画をたてたものである。從つて原告は右贈與による所有権取得をもつて第三者である野沢町農地委員会や被告に対抗することができない。且つ、本件農地は、昭和二十年十一月二十三日現在においては、不在地主三伍所有の小作地であり、しかして本件買收計画は同日現在の事実に基いて定めた、いわゆる遡及買收でもあるから、原告の本訴請求は失当であると抗爭した。

理由

本件農地買收計画に対し、原告及び三伍が異議の申立をしたが、却下されたので、さらに昭和二十二年六月二十七日被告に訴願したところ、同年七月二十六日これを棄却する旨の裁決がされ右裁決書の謄本は同年九月五日原告に送付されたことは当事者間に爭がない。從つて原告は、九月五日、右裁決のあつたことを知つたのであるから、原告は、昭和二十二年法律第七十五号第八條の規定により、同日から六箇月以内に右裁決や本件買收計画の取消を求める訴を提起することができたのであるが、自作農創設特別措置法附則(昭和二十二年法律第二百四十一号)第七條第一項により、本訴は同法施行の昭和二十二年十二月二十六日から一箇月以内にこれを提起しなければならないことになつたのである。しかるに、本件訴状に押捺してある受附印によると、本訴は右期間の経過した昭和二十三年三月十一日に提起されたことが明かである。結局本訴は出訴期間経過後に提起された不適法な訴であるから、これを却下すべきものである。よつて訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九條を適用して主文の通り判決する。

(目録省略)

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